第5回 「青豆ハウスを見学してきました。第1回」
入居者募集について
鎌倉で、〇△☐テラスハウスを進めるにあたり、私たちの考え方に近く、すでに実現をしている集合住宅を見てみよう。ということで、技拓の社員みんなで東京は練馬にある青豆ハウス(2014年竣工)に行ってきました。お話を伺ったのは、オーナー(大家さん)の青木純さん。青豆ハウスの住人でもあります。 “育つ賃貸住宅”をコンセプトに、8世帯のご家族が暮らしています。「昔ながらの長屋的と言いますか、醤油が切れたから貸してとか、パスタを茹でようと思ったらパスタがなかったんだけど、ある?とか、そんなやりとりが住人の間で生まれているんです」と、青木さん。
印象的だったのは、入居者募集の時の話。通常、賃貸住宅は、建物が出来てから募集を開始するのですが、青豆ハウスは、物件着工の時から入居者募集を始めたそう。募集する媒体は2つだけ。ひとつはシェアハウス専門のメディア「ひつじ不動産」、そして、面白い物件が載っていて、こだわりのある暮らしをしたい人が集まる「東京R不動産」。問い合わせをくれた人には建築現場に来てもらい、完成をイメージしたスケッチや完成予想図を見てもらう。建物に関する説明だけでなく、これまでどんな暮らしをしてきたか?これからどんな暮らしをしていきたいかという質問もしながら、青木さんの考える、ここでの暮らしぶりというものをお伝えし、一組ひと組、時間をかけて面談をされたとのこと。結果、想像力を持って、コンセプトに共感した人が入居してくれたようです。その後の入替時がある時は、入居希望者にも数組まとめて来てもらい、住人さんたちとも自然に会話していただけるようにし、相性なども確認して決めてもらっているそう。「住人お互いがハッピーに暮らすには、丁寧に会話をしながら、エントリーマネジメントといいますか、はじめにしっかりと価値観を確認することが肝心ですね」と。
入居者の組み合わせについては、事前にお互いの価値観を共有するために、丁寧に面談をするというお話は、まさに技拓テラスハウスでも、以前より話し合われていたものだったので、私たち深く頷きながら聞いていました。
第4回 「原点は“ちびバコ”」
今から7・8年ほど前、「小さく豊かに暮らす」をテーマにした「ちびスケ」という名前の小さな平屋プランを発表しました。おかげさまで「ちびスケ」は好評をいただき、現在、鎌倉山・那須・葉山に、そして「ちびスケ」を元にした、もう少し大きめの平屋も大磯に建っています。
その後、緊急事態宣言中に、単身の方々から「平屋を建てるとなると、大きな土地が必要なので、敷地を抑えることができる2階建てパージョンでプランニングをお願いできないか」という相談を何人かのお客様から受けます。それならば一緒に考えていきましょうという話しになり、3パターンの2階建て「ちびバコ」が誕生しました。こちらも大変喜ばれ、葉山、大磯、鎌倉と続けて3軒が建ちました。
20坪前後のちびバコは、単身・お二人用・小さなお子様ひとりの3人ご家族にうまく対応できるプランであることから、今回、この「ちびバコ」を繋げたテラスハウスにしようと、スタッフ全員一致で決まったのです。思えばこの10年、今回のテラスハウスに向けて準備をしてきたようにさえ感じた瞬間でした。常に時世の流れに自分たちの建物があっているのか、自問自答を重ねてきた賜物だと思っています。
もちろん、賃貸でも、小さくても、技拓の家として必要と思われるものはすべて躯体や意匠に盛り込みました。小さな庭を確保し、縦の空間構成を暮らしの中で感じることができ、無垢の良さや賃貸ではなかなか味わうことができないドライウォールの塗装仕上げを標準仕様にすることで、「賃貸だから」と、我慢しなくてはいけないことを少しでも軽減したかった。それこそが技拓で賃貸をやる醍醐味だと感じています。このテラスハウスには「家を体感してほしい」という、スタッフの思いが詰まっています。
第3回 「鎌倉恩返し計画」
街に主体をおいて、その街に溶け込むような賃貸で、なおかつオーナーにとっても住む側にとっても余白のある暮らしを提供することができたら、みんなが幸せになれると感じてやみません。私たちが目指している「街並みに寄与する」というのはそういうことなのですが、これって、鎌倉への恩返しともいえるのではないか。そんな話が湘南スタイルマガジンとの何回目かのミーティングで出てきました。鎌倉への恩返しとなってくると、妄想はさらに膨らみ、私たちがすすめている賃貸住宅の枠を裕に超えていきます。
「そういえば企業名や商品名の頭に“鎌倉”って付いているものって結構あるよね。それって 今確立されている“鎌倉ブランド”を使っているってことになると思うけど、私たちはその鎌倉ブランドを、例えばこの先100年に向けて育てていくことが大切なんじゃないか」。こんな話がミーティングで出てきました。「これは、技拓だけでなく、鎌倉に根ざしてきた企業、鎌倉に関わりを持つ企業や人たちと活動していくテーマにもなりますね。その旗振り役を湘南スタイルマガジンが担うというのはどうでしょう」。そんな風に話は展開し、“鎌倉恩返し計画”という大テーマが生まれました。技拓の「妄想テラスハウス」も、もちろん、その中にある一つの恩返しプロジェクト。これから、技拓の「妄想テラスハウス」のようなプロジェクトを、それぞれの企業のフィールドで検討してもらい、さまざまな鎌倉恩返し計画が生まれてくることを目指していこうと。この計画に参画してくれる企業はこれからの話になりますが、そんな想いを持って湘南スタイルマガジンの連載は2024年5月号からスタートしました。記念すべき初回は、浄智寺住職の朝比奈恵温さんに、100年後の鎌倉にどんなものを遺したいか、次世代にどんなものを引き継ぎたいかを、2回目となる8月号では、三味線音楽「荻江節」の荻江寿愼さんに、伝統を継承していくために必要なことを伺ったインタビューを行いました。そして、私たちの「妄想テラスハウスプロジェクト」の連載がスタート。まさに決して小さくない、大きな一歩を踏み出したという想いです。
第2回 「湘南スタイル、妄想を面白がる」
2023年11月のこと。技拓の毎年開催する「感謝祭」で、雑誌、湘南スタイルマガジンの担当者さんにスタッフがこのテラスハウスの話をしました。「今、50周年プロジェクトとして賃貸住宅を企画しているのですが、その実現までのプロセス、つまり、私たちの想いに共感してくれる土地オーナー様との出会いから、妄想を形にするための設計、そして着工〜。と時系列で追いかけたストーリーを、雑誌の連載コンテンツにできませんか」と。「なるほど!面白いですねえ」と湘南スタイルマガジンの担当者さん。そこからあれよあれよという間に、雑誌編集部とのミーティングが開催されました。私たち技拓のスタッフが大切にしたいことは、「技拓らしい賃貸であること」「街並みに寄与すること」。これは技拓が今まで注文住宅をやってきたことを、賃貸住宅に活かしていくことで、これからの賃貸住宅のあり方を、もっと素敵なものにしていきたいと考える同業者やオーナーの方々と想いを共有できるのではないかと考えたからこそ。このことを改めて湘南スタイルマガジンの方々と共有するところから「賃貸テラスハウスミーティング」は始まりました。技拓のアイコンともいえる、無垢のレッドシダーの外壁が、植栽から見え隠れする3または4連の長屋風建物の美しさはきっと圧巻だろう。鎌倉の地にきっと溶け込むだろう。みんなの妄想はどんどん膨らみ、雑誌の連載では「妄想テラスハウス」と名付けられました。
第1回 「妄想から始まった技拓テラスハウス」
「技拓らしい賃貸住宅」にチャレンジしていきたい。これは2022年に出版された書籍「時を経て、趣のある家」(※主婦の友社より)にあるインタビューページで、“社長[白鳥ゆり子]が見つめる未来”として話をしました。2024年、つまり今年の11月に創業50周年を迎える技拓が、次の半世紀に向け新たに挑戦したいこととして。実は、技拓では30数年前に数棟ではありますが、賃貸物件を手掛けたことがあります。その中のひとつにリヴァーサイドテラスという物件があるのですが、それはまさに、我々の理想とする街並みに寄与した賃貸物件。これは、私の心にも、そして多くの方々の印象に残る建造物です。
インタビューでは、技拓の「木」の家にもっと気軽に住んでいただき、良さを実感してもらいたい。オーナー様とは長持ちする賃貸住宅の価値観を共有したい。日本の賃貸住宅の品質向上を提案していきたいと語っています。
そんな思いをここ数年胸に頂いていたことで、私の中で妄想が広がっていきました。この妄想をしっかり実現させるため、50周年プロジェクトとして動き始めよう。そんな話を社内でするようになりました。「技拓らしい賃貸住宅って?」「街並みに寄与する賃貸住宅って?」「私たちの想いに共感してもらえるオーナー様に出会うためには?」などなど、妄想が徐々に具体的な話になってきました。